住民の定期総会を威圧する怒声と拍手 TOP

このサイトについて

管理規約に違反する者を放置することは、木造住宅の白アリの一穴を見逃すことに似ている。
気づいたときにはマンションの規律の乱れに歯止めがかけられない事態に追い込まれているのである。
けれども考えようによっては、管理規約違反者が続発するというような状況は、わずらう病状としてはまだマシといえるのかもしれない。こういうのは、いわば皮膚の表面にできた腫物のようなものである。
容体の変化が傷みをともなって目に見えるだけに、診察するのはそれほどむずかしくないし、適切な処置もほどこしやすい。多少時間がかかったとしても、うまく膿さえ出せれば、またもとどおりの体にもどることもできるのだ。
むしろ恐ろしいのは、マンションに音もなく忍び寄る黒い病魔である。
皮膚の表面が傷むのとは異なり、マンションは芯から急速に腐っていく。
骨も血管も神経も、日増しにただれていくのに、その病勢に誰も気づかない。
ある日突然、めまいに襲われるかのように自覚症状が表れ、気づいた時にはすでに手遅れな状態に陥っている。
これがいわゆるマンションの「乗っ取り」である。
乗っ取りの目的は、マンションに潜在するあらゆる利権を食い物にすることにある。
大胆にて巧妙に、一部の人聞がマンションのすべての利権を手中に収めるのである。
Kさんの住むSマンションも、今から思えば四年前、新任の理事長が就任したときすでに、その後繰り広げられる「乗っ取り劇」の幕は切って落とされていたのである。
築10年を迎えようとするSマンションは都内某所に佐置し、住戸数二二三戸というそれなりの規模を備えていた。大手マンション分譲会社が供給したという信頼感と立地のよさがあいまって、バブル華やかなりし頃はウナギ上りに価格が上昇した。
それにつれて売却、転売する人があいついだととから、昔ながらの所有者が急激に減ってしまい、住民の顔は様変わりしていた。特に各住戸を賃貸として貸し出すオーナーが急増し、Kさんのように新築の時からそこに住んでいる人にしてみれば、マンションの中に知った顔はそれこそいなくなっていた。 それまでKさんは、自分の財産でありながらマンションの運営についてまったく無関心であった。
その彼が自分のマンションの現状に初めて疑問を感じたのは、四年前のことだ。総会の議事録が手元に届いてから数日後、管理費の値上げの通知を読んだときのことである。
「先般、定期総会議事録でもお伝えいたしましたように:::」
ここ数年、議事録なんて送られてきても全然目をとおしていなかったので、その時のことは今でもよく覚えている。
引き出しの奥にしまい込んでいた議事録を引っ張りだして読んでみると、たしかに、管理費値上げの議案が賛成多数で可決された、とある。
「まあ、あの時は、昨今はマンションの管理の問題が話題になることも多いから、わがマンションもいい意味で関心が高まりつつあるんだろうってタカをくくっていたんですよ」

だいたいKさん自身、管理組合の定期総会にまじめに出席していたのは入居して二年固までではなかっただろうか。一年目、二年固までは総会というものがどういうものなのか興味もあったものだから、本来はゆっくり家で休んでいたい日曜日に仕事疲れの残る体を押して出席していた。
けれども事務局である管理会社が用意した式次第に沿って進行する毎年オキマリの議事進行と、マンネリの議案にうんざりしたのと、役員改選の時期を迎えて出席して面倒な役回りを押しつけられでも困るので、三年目からは総会開催の案内状に添付された委任状にサインをして送り返すだけになっていた。
だいいち、出席してもしなくても何も変化がないのだ。
当初は総会後に送られてきた定期総会議事録にはきちんと目をとおしていたけれども、会議同様、毎年、内容に変わりのないことがわかるとそれさえ読まなくなっていた。
管理費値上げの通達が届いてから二ヵ月もしないうちに、また別の書面がKさん宅に送られてきた。
「受水槽にあるポンプが突然作動不良を起こしたため、理事長の決断で緊急工事を発注した」
とある。
緊急に必要な工事ということでその時はさして気にも止めなかったのが、後から思い返せば、この時すでに乗っ取り集団の手口は動きだしていたのである。
事実、かれらの書いたシナリオどおりSマンションは急速に朽ち果てていった。
緊急工事の名のもとに、その後も修繕積立金はどんどん乱費され、わずか半年もしないうちに底が見えてしまう始末。
翌年の定期総会では、管理費と修繕積立金を今までの二倍にするという二年連続の大幅な値上げが議案となった。それまでマンション運営にあたっては無関心でいたKさんも、月々の出費がかさむということであれば無視することもできず、久しぶりに総会に出席するζ とにした。
四月某日、総会の出席者は五O人をゅうに超えていた。
マンションの敷地内の一画にある集会室は煙草の煙が充満し、これから始まろうとする事態をなかば察知して脅えているかのように各出席者の顔は異常な興奮につつまれていた。
定刻の午後三時、理事長が緊張した面持ちで壇上右隅から登場した。
「これより第八回Sマンション定期総会を始めたいと思います。まずは一号議案である昨年の決算報告を、事務局のM管理会社より報告願います」
昨年度の決算報告が読み上げられ、静かに可決された。議事は問題の管理費値上げ議案をも含めた今年度の予算案の審議へと移行した。
「それでは次に第二号議案に移りたいと思います。二号議案は管理費の値上げに関してですが
議長が議案について読み終わるのを待たないで、事態は急変した。
「異議なし!」
「議事進行!」
突然、会場全体に怒声が上がり、いきなり総会は騒然としたのである。
反対発言はおろか質問も封じ込めてしまうような威圧的な拍手が続いた。
「満場一致で管理費及び修繕積立金の値上げ議案は可決されました」
怒湧のような拍手とともに、議長の声が会場いっぱいに響いた。
予想もしなかったコトの流れにただただ鴛くだけのKさんは、あまりの恐ろしきに膝の震えを押さえるのがやっとだった。
ふと時計を見ると、開会が宣言されてからわずか八分しかたたないうちに総会は閉会されたのである。

最新情報

住民の定期総会を威圧する怒声と拍手

お勧めWEB情報

お勧めWEB情報

サイト情報について

main

Copyright(C) 住民の定期総会を威圧する怒声と拍手 All Rights Reserved.